水窪では2015年から、私も関わっている水窪のNPO法人「こいねみさくぼ」とうなぎパイで有名な浜松市を代表する老舗和菓子店「春華堂」さんと共同で「五穀栽培プロジェクト」を展開しています。
水窪は古くから粟(あわ)・黍(きび)・稗(ひえ)などの雑穀の栽培が盛んな地域でした。山間地域の水窪は急傾斜地が多く、肥沃な土壌とはいえない水窪では雑穀が重要な作物だったんです。
昔は水窪ではどこの家庭でも栽培されていた雑穀でしたが、現在ではごく一部で作られてるだけになってしまいました。しかし一方では健康志向で高まりで、「オーガニック」や「雑穀」が注目されています。
近年注目が高まっている雑穀で水窪を盛り上げたい!と「こいねみさくぼ」は、2014年から水窪に伝わる在来種の特産物化と耕作放棄地を活用する取組みを始めました。
そんな時に、春華堂さんとの思いがけない出会いがあり、共同プロジェクトが始動。
栽培した雑穀は春華堂さんの新ブランド「五穀屋」の店舗で、あわもち「みさくぼ」として販売され、ニュースにも取り上げられました。
「こいねみさくぼ」と春華堂さんとの取り組みが評価され、今年2016年4月には静岡県内で42件目となる「一社一村しずおか運動」として静岡県に認定されました。
- 一社一村しずおか運動とは
- 農山村と企業が対等な関係のパートナーシップを組み、それぞれの資源、人材、ネットワークを活かした双方にメリットのある協働活動の実現を目指し、農山村と企業の要望を県がコーディネートし、認定・支援する取組みです。
ちょっと長くなりますが、水窪と春華堂さんとの素敵なコラボプロジェクトについて、小松屋店主目線でご紹介したいと思います。
2014年秋 ~はじまりは突然に~ 雑穀でつながるご縁
少子高齢化が急激に進み休耕地が年々増加する水窪町。
私が所属する地元NPO「こいねみさくぼ」でも早急に対応していきたい課題の一つ。
その状況を少しでも解消して行きたい!
そんな想いもあり、この年までのNPOの主な活動は、休耕地を活用して水窪在来種のジャガイモを生産する事でした。
※水窪ではジャガイモの事を「じゃがた」と言います。
そんな中、水窪で長年雑穀を研究されていて、雑穀レストラン「つぶ食(ツブショク)いしもと」を営む石本静子さんから連絡がありました。
つぶ食いしもとさんは、自宅の一部を改装した農家レストランでアワ、ヒエ、キビなどの雑穀を使った水窪や北遠地域の伝統料理をはじめ、地元の野菜や季節の野菜、山菜を使った自然食料理を提供しています。
昔から雑穀を何十年と作り続けてきた、まさに雑穀の師匠ともいうべき石本さんからの電話。なんだろう?と話を聞いてみると・・・
※以下、方言のまま掲載します(笑)
石本さん:「お~い、今度、あんたん所に春華堂が行くって言ってたでねぇ~」との電話。
小松屋:「はぁ? 春華堂?」
石本さん:「あんたん所の栗蒸し羊羹が美味かったで会いたいだってよぉ」
小松屋:「へぇ~ そんな理由で何で来るだいねぇ~?」
石本さん:「そんな事はわしゃ~知らんわい まぁ会ってみょうねぇ~」
小松屋:「わかったわいねぇ~」
と、こんな会話から始まりました。
小さいながらも一応お菓子屋なんで、同業者から自店の商品に対して高評価をいただく事は悪い気もしないので、とりあえずお会いする事に。
後日、春華堂さんから数名がご来店。
とりあえず御挨拶。
小松屋:心の声(はぁ~なるほど!あの五穀屋さんの企画部ねぇ~ うんうん)
と、まぁ最初は普通にご挨拶。
で、名刺交換。
小松屋:(ん?!)
小松屋:(常務取締役!!!)
小松屋:(おぃおぃ 何でこんな偉い人が来るわけ???)
と、かなり動揺しながらも、常務のお話をお伺いしました。
初めは
「水窪産の栗を使ってるの?」
「自分で渋皮煮にしているの?」
「あんこは?」
などの栗蒸し羊羹談義。
そのうち、話は水窪の畑、雑穀へと・・・。
春華堂:「水窪には使われていない畑が多くありますよね?」
春華堂:「昔は雑穀もたくさん作られていたんですよね?」
小松屋:(?)
小松屋:(こ!これは!ひょっとして?!)
話は「栗(アワ)」から雑穀、そして畑へと・・・・・
春華堂さんで新たに立ち上げた新ブランド「五穀屋(ごこくや)」
雑穀を前面に出したプロモーションで話題となっていたので個人的に気になっていました。
小松屋:(でも何で家に来たんだろう?)
栗蒸し羊羹を餌に、まんまとしてやられた!って感じでしょうか?(笑)
頭の中に浮かんだ?(はてな)マークはいまだに消えませんが、とにかく水窪での栽培に意欲がある事はわかりました。
そして、お話をお伺いして、春華堂さんの本気度は十分に伝わりました。
そして、水窪再生のラストチャンス!とも感じました。
春華堂さんの
- 「五穀屋」のお菓子に使う、原料となる「雑穀」を「水窪」で育てたい!
- 地元で商売をさせていただいている以上、企業として地域に貢献していきたい!
- 安心で安全な地元の原材料が欲しい!
- この地域の良さを無くして欲しくない!
という想い、そして水窪の
- 休耕地を再利用して、僅かな雇用と高齢者の生きがいを作りたい!
- 小さな「畑」を通じて「みさくぼ」の良さをもっと知って欲しい!
- 水窪の魅力、水窪の可能性を幅広くリリースしてこの町へ移り住む方を増やしたい!
- どんなに小さくても、どんな形でもいいから、企業を誘致したい!
という想いは完全に一致。まさに両想い!(笑)
しかも、県内トップクラスの優良企業さんからのお誘いです。
行政には頼れないこのご時世。
民間企業からのお誘いを断る理由はありません。
で、私個人と言うよりも、NPOとして一緒に盛り上げて行く事を決意しました!
※この時点では私の決意(笑)
それまでの「じゃがた畑」での活動が少しは役にたつだろう!って超個人的な考えで・・・
私が勝手に決めて後日、理事長に事後報告するなんて超適当?な所が小さな町ならではなんですが(^^ゞ
でも、そんな自分勝手な感じでも地元メンバーは賛同してくれて。
五穀屋・NPO法人こいねみさくぼ 共同プロジェクトがいよいよ始動することになりました!
2015年春 ~前途多難~
なんで水窪で作った雑穀を春華堂にやらにゃ~いかんよ?
春華堂さんとの話を進めて行く中で、石本のおばちゃんは外せない存在。
何故なら、数十年に渡りここ水窪で雑穀の栽培と発展にずっと携わって来た人だから。
誰よりも詳しく。
誰よりも熱い想いで雑穀と向き合っている。
そんな彼女だからこその厳しい意見。
「なんで水窪で作った雑穀を春華堂にやらにゃ~いかんよ?」
「だいたいねぇ~雑穀だってそんなに簡単なもんじゃないだでねぇ~!」
「昨日今日始めた連中が畑なんか出来るだかねぇ?」
おっしゃる通りっす。
でも、このプロジェクトを成功させるためには、石本のおばちゃんの協力は絶対にかかせません。
私も石本のおばちゃんに負けずに反撃です!
「どうしても今回のプロジェクトは10年かけて成功させたい!」
「彼らも本気でこの町の事を考えてくれてるだで!」
「今度は地元の人間が本気になる時だで!」
長いお付合いの石本さんを何とか説得してプロジェクトは進んで行きます。
~前途多難2~ かっちんこっちんの畑
春華堂の皆さんは、石本さんのお宅を何度も何度も尋ねてくださり、少しづつ信頼関係を築いていきました。
「さて、肝心な畑は?」
「春華堂さんの求める収量を確保出来る面積はあるの?」
これがなかなか問題でして。
休耕地は多いものの、元々土地が少ない水窪で、大きな畑を見つけるのは大変な事でした。
しかし、そんな時こそ田舎の力が発揮されます。
畑募集の口コミはあっという間に広がり、友人の友人が20年ほど休んでいる畑を貸してくださる事に。
現場に向かい、畑を確認。
長年使っていない事もあり、茅が生い茂り、石はゴロゴロ。
でもロケーションは最高!
すぐにお借りする約束をさせていただきました。
そして、鍬、耕運機、草刈機を準備して、いざ、耕作作業へ!
小松屋:「ん?」
小松屋:「なんじゃこりゃ?」
鍬なんて全く歯が立たない。。。
「かちんこちん」って言葉を久しぶりに使った気がする?
とにかく、鍬が入らないんです。
大きな石もあるし、何より、茅の根がエライ事になっていて全く作業が進みません。
小松屋:「こりゃ~手作業じゃぁ~一か月かかるねぇ~」
種まきに合わせるには、そんな悠長な事は言ってられません。
さてどぉしましょう?
こんな時も田舎ならでは。
同じNPOメンバーの中に建設業を営む方がいて
「普段は使っていない油圧ショベルを持ってきてやるわい!」
さすがプロの技&マシーン!
順調に耕作作業が進みました。
仕事を調整して、僅かな休日は全てを畑作業にあてて、何とか「畑」が出来ました。
~種まき~ 春華堂さんからも多くのスタッフが参加してくれました!
何度も何度も畑に通い詰め、種まきの日が来ました。
この畑を耕運機でどれだけ往復した事か・・・。
種は石本さんが大切に保管している「水窪の在来粟」をいただきました。
この日は春華堂さんからも多くのスタッフが参加してくれて、久しぶりに山里は人の声で溢れました。
畑作業での安全を祈願して皆でお祈りも欠かせません。
~芽吹き~
種まきから二週間。
小さな小さな芽が出ました。
~全滅~
新芽が出て一安心していたら・・・。
全て鹿さんのお腹の中に。
山間地域ならではの試練。
~種まき2&電気柵~
今度こそ!
少し予定より遅れてしまいましたが、二度目の種まき。
今度こそはあいつに好きなようにはさせない!
電気柵を設置して万全を期す。
2015年 初夏 ~草・草・草~
二度目の種まきが成功し、順調に成長していく「粟」
が、やはり相手は自然。
週1~2回、必ず誰かが交代で草取り草取り草取り作業。
2015年初秋 ~チュンチュン~
夕暮れ時の風が心地よくなって来た頃、「粟」の穂も重そうになって来ました。
電気柵は問題なく稼働しているけど・・・
空からの襲撃にも備えないと!
村の雰囲気を無視した野暮ったい見た目にはなるけれど、今までの苦労を思えばそんな事言ってられません。
鳥除けネットを設置!
2015年 秋 ~収穫~ しっかり育ってくれてありがとう
秋晴れの中、待ちに待ったこの日のために県内外からの水窪モニターツアーの方々、春華堂のスタッフ、そしてNPOスタッフが集結。
皆でワイワイ収穫作業。
可愛がって来た分、何とも言えない気持ちになりました。
「粟」に対しても、いつも「栃の実」に抱くような愛おしい気持ちになりました。
小松屋:「しっかり育ってくれてありがとう」
やはり生き物の成長は嬉しいですね。
しばらくは秋風に揺られながら乾燥作業に入ります。
2015年 初冬 ~脱穀~
きれいに乾いた「粟」を脱穀。
まずは手作業で茎から種を優しく優しく取り出します。
本当に細かい種なので、なかなか神経を使う作業。
取り出した種は、ふるいを使い不純物を取り除いていきます。
仕上げは昔ながらの農具 唐箕(とうみ)を使って。
唐箕は風力を起こして殻と実を選別します。
一年目のほんのわずかな収穫だけど一から育てたかわいいかわいい粟。
最後は石本のおばちゃん自らが精白作業を行ってくれて綺麗な「粟」に仕上がり・・・
小さな一歩ですが、五穀屋さんとのプロジェクトが形になりました。
※2015年 11月1日 静岡新聞より
この活動が町全体に普及して行けば、このプロジェクトは成功!となるでしょう!
しかし、プロジェクトは始まったばかり。
2016年、新たな挑戦も始動しています!
少しづつではありますが、確実に手ごたえは感じています!
静岡県から「一社一村」の認定も受けました。
秋には「みさくぼ」の名前が銀座デビューするかも?知れません!
五穀屋さんは定期的にブログやFacebookで水窪との雑穀プロジェクトを紹介してくれています。 とっても嬉しいです! ぜひこちらもご覧下さい。
五穀屋 (ごこくや) / 天空の畑、水窪(みさくぼ)で今年も粟の栽培がはじまります。
本日は水窪へ2回目の種まきに行って参りました。 今回は新たに”きび”の栽培にも挑戦。 水窪の在来種は大変貴重な品種なのですよ。 畝を作るところから始まり、鹿除けのネットを張る作業も体験。 天候にも恵まれ、無事に作業を終える事ができました。 すくすくと成長しますように…。
五穀屋 -Gokokuya-さんの投稿 2016年5月14日
先月アワとキビの種まきをした水窪へ、様子を見に行ってきました。 まだ小さいですが沢山の芽が出ていた事にひと安心。 雑草も元気よく生えていたので手入れをしていたら…あっという間に時間が過ぎていきました。 今年も成長が楽しみです。
五穀屋 -Gokokuya-さんの投稿 2016年6月7日
何もしなけりゃ消滅集落。なにかやるなら今がラストチャンス!
お菓子屋が畑仕事をしているので、周りからはいろんなことを言われました(笑)
「ド田舎の小さなお菓子屋がどぉして畑をやってるの?」
「じゃがたや雑穀作ってどぉするの?」
「それも同業他社、全国区の企業と一緒に?」
「お店やめるの?(^^ゞ 春華堂に勤めるの?(^^ゞ」
そんな声が彼方此方から聞こえますが・・・
私の目指すところ。
それは・・・
住んでる住民が幸せを感じられる町を取り戻す事!
後世にこの町を残す事!
何もしなけりゃ10年待たずして消滅集落。
アクションを起こすなら今がラストチャンス!
今の活動が5年後?10年後?20年後?に地域再生のカギとなれば!
自分の出来る事を全てやりつくす!
カッコつけてるわけじゃなく、この町で生まれ育った人間の義務であり責任だって思っています。
人口減少はいいんです。
中身が大事なんです!
いつの日か、賑やかな町が戻れば小さな個性的な楽しいお店も増えるかも?
私の妄想はとどまる事を知りません(笑)
これからも畑に通う日々は永遠に続く?!予感!
未来の賑やかな「みさくぼ」を目指して。