お菓子の材料としての寒天は、あんこなどに比べて、いささか地味な存在と思われるかもしれませんが羊羹や水菓子など、和菓子特有の季節感や食感を演出する材料として、とってかわることのできない大切な材料のひとつです。
寒天の原料となる天草(テングサ)は海藻からできています。天草の産地として知られているのは、静岡県、三重県、和歌山県、徳島、愛媛、山口、大分、長崎など、西日本の沿岸地域です。
しかし寒天の名産地として知られているのは長野県、岐阜県など海から遠く離れた山間地です。
海で採れたものをわざわざ遠い場所まで運び、寒天をつくるのは効率が悪いのでは?と不思議に思いませんか?
私も子供の頃に父から聞かされたときに「なんでわざわざ山の中で作るんだろう?」と疑問に思いました。
でもそれにはそれには理由があります。
美味しい寒天をつくる絶対条件、それは「厳しい寒さ 」です。
山に囲まれた盆地は、その地形上朝晩の冷え込みがとても厳しいです。
気温や湿度を変化させる空気の移動が少なく、海からの空気の影響も少ないので、盆地は太陽以外に気温に影響する要素がほとんどありません。
山に囲まれているため風が少なく、空気が盆地内に淀んだ状態になります。このことにより「盆地は夏は夜も温度が下がらず寝苦しいし、冬は日中でも寒くて底冷えする」と言われるのは、このためです。
また盆地は放射冷却現象がおきやすい地形でもあるため、急激に温度が低下する要因になります。
・日中の寒暖差も少ない
・朝晩の厳しい冷え込み
・放射冷却による温度低下
・湿度が低い(乾燥している)
人間が生活する上で厳しい条件になりますが、寒天作りにとっては、この上ない好条件の土地ということになります。
天然の寒天ができるまで。
1)原料
主原料は国内産の天草(テングサ)です。一釜一回分の使用天草は乾燥重量にして200kg~300kgです。
2)水浸
天草の塩分、貝殻、土砂などをとるために、水槽に水を入れ、48時間浸します。その間、水は数回入れ替えます。
3)洗浄
ドラム型の洗浄機に水浸した天草を入れ洗浄します。
4)煮熟
鋳鉄製釜の上にひのき製のこしきをはめた釜に水を入れ、沸騰したら天草を入れて約12時間、煮熟します。
5)ろ過
ろ袋にくみ出し、押し蓋をしてコンクリートの重しをのせ、搾り出します。ろ袋に残った天草は肥料として使われています。
6)凝固
ポンプで凝固舟(小舟)に移し、常温で18~20時間静置して凝固させます。
7)切断
凝固したものを羊かん状に切ります。これを小舟のまま戸外の乾燥場(水田のほ場)へ運び出します。
8)突き出し
よしずの上へ羊かん状に切ったところてんを点筒で突き出し、手で同じ厚みとなるように広げます。
9)凍てとり
氷点下0℃になった時、水を振りかけて、その水から凍らせる事により、上質の寒天に仕上がります。
10)凍結乾燥
凍結、乾燥を2週間ほど繰り返すことにより、水分が蒸発し、乾燥した寒天分が残ります。
11)製品
乾燥した寒天は、選別して出荷します。当町で製造された寒天は、ほとんど国内で消費されています。
寒天は、天草を溶かしてまず「ところてん」の状態にし、その後寒さの厳しい場所で凍らせます。凍結と乾燥を繰り返すことで寒天が作られます。
現在では工場で一年中製造される粉寒天が一般的ですが、当店では昔ながらの製法で作られた国産天草から作られた寒天を使用しています。
粉寒天は寒天を戻したりする作業も必要ありません。とても使いやすく、価格も安いので、あえて粉寒天を使用しているお店も多いです。
無味無臭なんだから、味には関係ないじゃん。天然ものを使う意味はあるの?と思われるかもしれません。
天然の寒天は、戻す作業や下ごしらえが必要になり手間も時間もがかかります。しかし天然ならではの美味しさの秘密がたくさんあります。
国産物や天然由来の素材にこだわるのには単なる意地や見栄ではなくちゃんとした理由があるんです(笑)。
天然の寒天には、ミネラルや食物繊維が多く含まれています。寒天は水に溶ける水溶性食物繊維と水に溶けない不溶性食物繊維の両方を備えた優れた食品でもあります。
海藻を天日干しすると旨味成分が凝縮するせいかもしれませんが、無味無臭が特徴の寒天でも、口に含むとわずかな旨味を感じることができます。
また保水力も高いため、ぷるんとした食感やのどごしも長持ちします。
当店では羊羹や水菓子などで使用しています。こだわりの材料を使った当店のお菓子をぜひ味わってみてくださいね。
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